小田切 寛 JEC理事長
2018.6.15

新緑が美しい5月の末、夕陽があたる巣箱からヤマガラの子供たちが
巣立とうとしていました。
最初の一羽が丸い出入口から身を乗り出し、あたりを見回しながら
「ヨシ!」と決心したように飛び立ちました。
空中で少し身体が沈みましたが、必死に木の枝に飛び移りました。
 
少し離れた所から、2羽の親鳥がチーチーとかん高い鳴き声を立てています。
「さあ、みんな勇気をだして出てきなさい!」と言っているように聞こえます。
次々と順番に子供たちが飛び立ちました。
 
最後の7羽目が飛び立とうとしましたが、うまくできません。   
巣箱の中で頑張ってジャンプしている姿が、出入口を通して見え隠れします。
いったん頭が出かかりましたが、やっぱりうまくいきません。
親鳥の鳴き声はますますかん高くなっていきます。
 
「さあ、夜が近いよ!見えなくなるよ!頑張れ!」。
見ていた私もどうなるか心配になりました。
この巣箱は庭のカラマツの木、地上4メートルのところにかけてあります。
ついに陽が当たらなくなり真っ暗になりました。
巣箱の中も、親鳥の声も静かになりました。
 
翌朝の6時、私は最後の1羽がどうなるか観察しました。
すでに親鳥が来ています。そしてチー、チー、と声をかけています。
中の子供のジャンプしている様子が見えています。
 
1時間がたちました。事態は変わりません。
動きが静かになりはじめました。
子供は弱ってきているのでしょうか。
 
すると離れて見ていた親鳥が2羽とも出入口の傍まで行って、
直径3~4センチほどの円形の出入口を突き始めました。
穴を大きく削ろうとしているのです。
 
しかし、中には入っていきません。
その親鳥の行動に励まされたのか、再び子供はジャンプしはじめました。
そしてついに8時30分、最後の1羽が出入り口に身体を乗せて
辺りを見渡してから一気に飛び出しました。
 
見ていた私と妻は手を叩いて喜びました。
親鳥の姿を捉えることはできませんでしたが、きっと「ヤッター!」と言って見詰めていたことでしょう。
そして巣箱の周りは静寂になりました。
 
私は、富士山の1合目に近い1170メートルの森の中に定住して12年になります。
バードウオッチングが趣味の私は、鳥の行動に興味を持つようになりました。
面白いことに、人間と共通する行動が観られます。
浴室のガラス越しに、鳥に気づかれずに観察できる巣箱を設置してみました。
シジュウカラが営巣しました。
 
すると卵から雛に孵した時、シジュウカラ夫婦が、
人間のような行動を取るのが分かりました。
夫婦はエサをとっては口に咥えて必死に雛に運びます。
その時、オスはまず巣箱にやってきてからすぐ中に入りません。
 
まず巣箱の屋根に止まって周りを見渡します。
どこかに危険な敵はいないか、まさに睥睨している感じです。
気になることがあると、キーキーと警戒音を出しながら
長いと15分から20分も止まり続けます。
口に餌を咥えたまま警戒し続けます。
人間の男親を彷彿とさせる行動なのです。
 
一方、メスの行動は素早いのです。
餌を咥えてサ~っと巣箱に向かって飛んできます。
オスが出入り口の近くに居るものなら、「あんた、どいてどいて!ジャマよ!」と
言っているように中に入ります。
餌を渡すとまたサ~っと出ていきます。
 
子育てを懸命にしている人間の女親の振る舞いを見てしまいます。
鳥にもオス、メスの違いに合った見事な役割行動があるのだと関心してしまいます。鳥たちの生活も楽ではありません。
実は危険が一杯なのです。
ヘビの侵入、カラスの攻撃、テンの侵入、リスの巣箱乗っ取りなど
何度も危険な場面を目撃しました。
だからこそ鳥の夫婦は、自然と役割行動を取るようになったのでしょう。
 
 さて、みなさんに質問です。
「親鳥は雛に1日に何匹ほどの虫を巣に運ぶと思いますか?」
答えは、日本野鳥の会の資料によれば、100匹ほどの虫を運びます。
みなさんイメージできますか。虫はほとんどガの幼虫とのことです。
これは私の観察結果にも合っています。
観ていると3分間に1回、夫婦で交互に運びます。
1日5時間くらい餌を摂っているので、1日に100匹から200匹の虫を運んでいると
思われます。
ある報告では、シジュウカラは年間に85,167匹の虫を摂っているとのことです。
 
これから分かることは、
「小鳥の成長は、植物の成長にとても役立っています。
家の周りに小鳥がいるだけで木々の葉が健康になります」(日本野鳥の会)。
そして自然は絶妙なバランスで成り立っているのです。
 
ところでこんな経験をしていると私自身の見方も深まりました。
「なんでオレはこんなに生物の観察に熱を入れてしまうのだろう? 
なんで飽きないのだろう?」と。
調べた限りでは、エニアグラム(昔から人々に受け入れられてきた9つの性格分類)でいうタイプ5(調べる人、観察する人)に私はかなり当るようです。
もちろん長所も短所もあるタイプです。
 
こんなふうに日常の振る舞いと照らし合わせて
私の自己理解がかなり客観的に進んだのもありがたいことでした。
まだまだ自然の生物には興味あるものが多いのです。
対象と仲良くなっていると、いつの間にか感覚が開放されているのを感じます。
自然の中での生活は厳しいけれどまだまだ学ぶ喜びが多いのを実感しています。