荒木 直紀 JEC理事
2012.5.15

「お父さん! 僕、大学を中退したいんだけど」
ある日、二十歳の息子が言いました。
 
「え!なんで?」
父親は突然のことで、ビックリしました。
 
「うん、大学2年まで、やってきたけど、こんな大学……出たって
碌な就職先はないし、何をやりたいかも分らないんだ。
それに……実は3年に進級できないんだ。
アルバイトも面白いから、大学を辞めても良いと思うんだ」
 
実は、この息子は大学1年の時から、時給の良いパチンコ屋で、
夕方から閉店まで働き、閉店後には店内の掃除、翌日の準備などで
毎日の帰宅は午前1時頃、それから風呂に入ったり、夕食を取ると、
寝るのは午前3時過ぎになっていたのです。
 
当然のように、朝早く起きることができずに、
この1年ほど、ほとんど大学へは行ってないのです。
従って、出席日数が足りず、年度末の試験も受けられず
3年に進級できないことが確実になっていました。
 
「そうか、分った。じゃあ、お前に2つの選択肢をやるから
2〜3日、良く考えて結論を出してみろ。
1番目は、このまま大学を続ける。但し、授業料はあと2年分しか出さない。
バイトで結構、稼いでいるようだから、5年目の授業料は自分で出す。
2番目は、大学を中退する。その代わり、此の家を出て行け。
そして、今までの大学の授業料2年分を全額返しなさい。
毎月十数万も稼いでいるのだから、返せるだろう。」
 
「分ったよ、出て行けば良いんだろ!」
ぶっきらぼうに言い放った息子は、数日後に家を出て行きました。
 
1週間後、息子が電話してきました。
「アパートが見つかったから、保証人になってくれ」
 
「保証人になんか、ならないぞ」
父親は言いました。
 
後になって分ったことですが、父親に断られた息子は、
その時、付きあっていた彼女の親に保証人になってもらい、
アパートを借りることができたということです。
 
3ヶ月後、突然、息子が家に戻ってきました。
ボロボロの姿で、やつれ切った息子が、玄関に立っていました。
 
「何か食わしてくれない!この数日、ろくに食べていないんだ。
アルバイトの金も、家賃やら何やらで、食費にまで廻らないんだ」
 
父親は、哀れな息子の姿を見て、動揺しましたが
「ダメだ!お前をこの家には入れない。
自分から覚悟して出て行ったんだろう。約束は守れ!
ここに2万円あるから、これでメシでも食って、もっと頑張れ」
 
息子は金を受け取ると、すごすごと帰っていきました。
父親の胸は、とても痛みました。
母親は、ただオロオロするばかりでした。
 
数ヶ月後、息子は授業料の返済分、2万円を父親の口座に振り込んできました。
その後も、毎月1万から2万円を定期的に振り込んできたということです。
 
「元気で、やってるか?」
「まぁ、なんとか」
 
「メシは、ちゃんと食べているか?」
「食べているよ。実は今、家賃の負担を減らすため、
彼女と一緒に暮らしているんだ」
 
息子は、素直に自分のことを話すようになってきました。
 
現在は、30歳となったこの息子さんは、
中退した大学の授業料を父親に全額返済し、
今は上場企業で正社員として働き、その彼女と結婚し、子供も生まれ
マンションを購入し、幸せな家庭を築いているそうです。