小田切 寛 JEC理事長
2016.6.15
ある時、東京郊外のある駅で、市のコミュニティーバスに乗り、ちょうど運転手さんの真後ろの 席に座ることができました。
発車時間がきました。運転手さんはバスを動かし始めました。
その時、バスの乗り口に向かって中年の女性が息急き切って走ってきました。
なにやら手を振っています。私にもその姿が見えました。
「待って、待って!」と言っているように見えました。
運転手さんはバスを止め、ドアを開けました。
はぁはぁ、息を吐きながら乗ってきたその女性に、運転手さんは言いました。
「危ないので、早めに来てください」と。
すると女性が言いました。 
「だから、行っても良いと合図したでしょ!」 
どうやら手を振っていたのは、「発車してもいい。乗らなくてもいいわよ」との合図だと
言いたかったようです。
私の目には、どちらにも取れる手の振り方でした。
二人は黙ってしまいました。
バスの中には冷たい空気が流れました。
私は考えました。
私が運転手さんなら、どのように声掛けしただろうか……と。
そのとき、私が想像した運転手さんと女性の会話は次のようなものです。
運転手さん 「間に合って良かったですね。」 ⇒ 中年女性 「ありがとう。助かりました」
運転手さん 「安全のために少し早めに来てください」 ⇒ 中年女性 「はーい」でした。
皆さんはどのようなイメージを浮かべますか?

私は富士山麓に住んでいて、東京には高速バスを使って頻繁に出てきます。
以来、運転手さんの声掛けや態度には大きな関心を持つようになりました。
そこで分かったことは「バスの運転手さんほど大変な仕事はない!」ということでした。
いろんな特徴を持つお客さんを相手に、安全を保ちながら、快適に気持ち良くバスの時間を
過ごしてもらうということは、簡単なことではありません。
たいへんな努力が要るということです。
そして、人々を感動させるエピソードには、バスの運転手さんの素晴らしい態度や行動、
声掛けが多く取り上げられていることを発見しました。

集めた運転手さんのエピソードの中で、今回は2010年に、ある新聞で取り上げられた素晴らしい読者投稿をご紹介しましょう。
18歳の女子大学生からの投稿です。
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愛情あるしかり方に脱帽
バスに乗っていた時のことです。
小学校高学年くらいの男の子が乗車する際、運転手の顔に小銭を投げつけました。
運転手はその子を捕まえ、「人を傷つけることをしてはいけない。それに、このお金は君の親が働いて君に渡した大切なものなんだ」としかりました。
そして、制帽を脱ぎ、その子と同じ目線になって、「僕にも君と同じくらいの子どもがいるけど、
もしこんなことをしたら同じようにしかる。二度とこんなことはするなよ」と諭しました。
その子は席に座り、泣いているようでした。
運転手はその子が降りる時、「気をつけて行けよ」と優しく声をかけました。
これまでも乗客に注意する運転手を見たことはありますが、たいていはぶっきらぼうです。
この日の運転手の方は愛情あふれるしかり方で、いつものけだるい朝の通学が、
一変するようでした。