「例外探し」

 年の瀬も迫ったある日の朝、
社員相談室に予約もなく一人の男性社員が飛び込んできました。
シワになり薄汚れた感じのワイシャツと雑に結んだネクタイ姿に、
何があったのか?と、ちょっとビックリしながらも、相談室に招き入れて
話を聞くことにしました。 

 年齢は50歳を少し過ぎたところで、一年前に情報システム部門に異動し、
社内データの取り纏めや配信などのシステム管理の仕事が中心とのこと。
職場のメンバーは殆どが自分より若く経験が豊富なために仕事がやりにくいという、
どこにでもあるような話。
 本人の話では、仕事は嫌ではない。
経験豊富な若手には負けたくないと思って今までの仕事をベースに
いろいろ改善提案を行っているが、取り上げてもらえるところまではなかなか行かない。
馬鹿にされるのが嫌で、教えてもらいたいと思っても引いてしまうことが多い。
一方で上司からは経験に関係なく同じレベルの仕事を求められるので、
追いつくためには残業でカバーするしかない……とのことで、
この半年くらい疲労の蓄積がひどく仕事の能率が落ち、上司からのプレッシャーも
どんどん厳しくなってきて、精神的にも辛くなって休むことが増えてきた。
今日も休暇をもらったが、その分をカバーするために昨夜は徹夜で仕事をし、
今朝は残業明けで帰宅する途中だという。
不満を吐き出すエネルギーが一段落したところで、
ちょっとペースを変えたら、今度は家庭の話に。
 親の健康問題、子供の就職問題など、またまた悩みの洪水。
そういう中で、親の世話をしてくれていた奥さんが骨折で入院し、
仕事も大変なのに大事な人に倒れられて困ってしまった……とのこと。
 色々とエピソードを吐き出して、ちょっとトーンが落ち着いて
 『なんで自分にばっかり厄介なことが…』と口にしたのを機にカウンセラーがひと言応答。
 『○○さんはなんで自分にばかり厄介なことが起こるのか?とおっしゃいましたね?
確かに仕事で大変な思いをし、家庭でも奥様が骨折して入院するなど
大変なことが起こったことをお話しいただきました。
でも、○○さん、ずーっと悪いことばかり起こっていたのですか?
最近、この2,3か月に良かったなぁと思われることは一つもなかったのですか?』
 これを聞いた○○さん、
 『えっ? 良かったことですか? うーん… (沈黙)… 良かったこと? 何かあったかなぁ…』
カウンセラーはさらにひと押し、
 『大きな出来事でなくてもいいのですよ。良かったと思えることはありませんでしたか?』
○○さん、
 『…そういえば、女房が先週退院したのですが、それって良いことですよねぇ?
そうだ!良いことですね? ひとつありましたねぇ。女房が退院してきたのですよ!』

 これ以上書く必要はないと思いますが、良かった出来事を見つけたことで、
すっかり表情の変わった○○さんが口にした言葉が印象的でした。
 『途中でクリスマスケーキを買って帰ります。女房の退院を一緒にお祝いします!』
カウンセラーは、今日がクリスマスイブだということを思い出したのです。